top of page

楽しさを伝える書家「上田普」Ueta Hiroshi


楽しさを伝える書家「上田 普」

「上田 普」氏は書を使ったアートワークを展開している書家だ。彼は、他のアーティストとの活発な交流を通じ、文字と芸術をミックスした今までにない作品を創造している。

その彼が芸術活動につき最も大事にしていることは「楽しさを伝えること」という。

また、「音楽、特にブルースが好きで、黒人の音楽センスってマネできないよね」といい、このような黒人音楽の感性を自身の作品活動にも適用できるのではないかと思っていると語った。

例えば、「黒人だからこそ表現できる音楽のように、日本人だからこそ表現できる作品を作ること。つまり、日本人じゃなければ表現できないものとはなんだろうって考えて、作品制作をしていく事がとても大切な要素なんだ」と感じるという。

音楽から思い浮かぶことが多いと語った彼は「音楽を聴いてると何かが見えてくることが多くて、その音楽からもらったイメージを作品に取り込むこともある」と、作品と音楽の関係性について説明してくれた。そのため、最近はクラシック音楽を楽しめる喫茶店もよく尋ねるという。

彼が書道をやり始めたきっかけはなんだろう。

彼の母は書道教室をしていた。「そのため幼い頃から自然と書道と接する機会が多かった」と微笑みながら語る彼の姿から書道を愛する気持ちが伝わってきた。

又、「書道教室に来ていた色んな人と触れ合うことが好きだった」というところから彼が社交的な性格になったともいう。

自然状態の ‘美’

「上田 普」氏は自身の信念である ‘楽しさを伝える’ こと以外にも心がけていることについて ‘自然であること’と答えた。

「表現する人はどうしても作品に自分が出てしまうけど、自分を出し過ぎてしまったらいやらしい作品になる」為、それが ‘自然な筆の動き’ に心がけている理由であると説明した。

尚、「思い通りってつまらないし、結果物が自分の想定内だったら面白くもない。自分の実力以上のものが出来上がった時すごく感動するし、また次も頑張れる。だからもっともっとと想像以上のものが出来上がることを目指している」というところから、彼の努力が作品に“生”そのものの美しさにつながる原動力ではないかと思えた。

日本の ‘美意識’

「日本の美意識は世界に誇れるもの」、「日本はスペシャルだ。もちろんイギリスもアメリカも世界どの国でもそれぞれスペシャルなものがあると思う」と語った。

しかし「私は日本人だから、日本の特別な所を思い切って表現しようと思っている」と、自身の芸術活動につき確固な方向性を示した。

「作品は個人の表現したいものも入っているけど、必ずアーティストが生まれ育った国のカルチャーや思考が現れると思うから…」、「すべての人々にはきっと‘違い’が存在するからそれが面白い。もしその‘違い’を同じものにしてしまったら全然楽しくないと思う」

それはつまり、彼の信念である楽しさがなくなるということ。

「お互いの意見や考えが違うからこそ色んな種類の面白い作品が誕生する。」という彼の話はごく一般的な話だが、それでも心にしみるのはきっと現社会の状況がそうではない為であるだろう。

彼は‘日本人離れ’という言葉がそんなに好きではないという。「日本人でいいじゃん」と語り、日本人の‘美意識’について誇りを持っていた。そして日本美術の特徴である ‘余白’について語り続けた。

仮に日本庭園に石が置いてあるとすると、石が置いているところだけではなく、置いていない空間が大事であるという。つまり‘余白’の美しさのことである。

彼は「ただ均一に並べるのではなく‘ズラス’ ことも日本の‘美意識’ の特徴」であると語り、その特徴は「自然を表現する為」と説明した。

冷静と情熱のあいだ

「上田普」氏は最近、色んな人の‘声’をもっと聞くべきと考え始めたと語った。そして彼は‘声’という作品を手がけ、その背景について「メディアからの声はかなりその力が強くて、社会的にも影響力のある声。でも私はもっと小さい個人個人の声を聞きたかった。又、その声を聞き逃してはならないと思う」という。「東日本大地震の時‘つなぐ’という作品を手がけたことがあって、その時集団心理の怖さを感じ、どうしたらもっと客観的な表現ができるかについてすごく悩んでた」「どっちも正しいかも知れないし、どっちも正しくないかも知れない」というジレンマは作品制作により客観的で冷静な判断を心掛ける様にしてくれたと語った。

そんな彼だが、「日本人の‘美意識’と‘芸術’に関する気持ちはもう少し熱くならないと」と言い、彼がインタビューを通じ伝えたい“メッセージ”は「日本の物静かな‘美意識’はイイのだけれども・・」ただ、「現在日本人アーティストは熱さが足りない」という。

まず、彼はこのような活動を始めた頃について「私がこの仕事を始めた頃、日本人は日本に目が向いてなかった。ヨーロッパ、アメリカ、他のアジアに目が向いていた。」と言い、その為彼はより日本を表現し、より多くの日本人に日本のことを伝える作品を制作していたと語った。

だからこそ彼は韓国や中国などのデザインが興味深いといい、それは「彼らの作品には彼らの文化がしっかりしみこんでいるから」と説明する。

例として、以前‘アジアデザインアワード’の授賞式に参加した時、彼が感じたことについて話してくれた。「韓国のデザインは韓国の文化を表現していたし、中国/台湾も同じくそれぞれその国の文化を象徴するものだった」そういう面で「日本は逆に遅れているような気がした」と述べ、今の日本のアーティストに‘熱い表現’が少ないという気持ちを表した。

それに関して「もちろん‘熱さ’を表に出す必要はないけど、‘熱量’は人に伝わりやすいし、その情熱は伝播することが多い」と言い、「もの静かな作品は好きなんだけど、その様な作品はメッセージが伝わりにくい。相手にメッセージを伝えるためにはエネルギーを解放する様にしなければならない」と語った。そして、それは「やりたい事が明確になってからこそ実現できるもの」だと説明する。

楽しい人たちの社会

最後に彼は「面白い人が増えればいいな」、「皆が同じくしているより、それぞれの意見、違う魅力を持つ人々が共存できる社会が私が思う理想の社会」だと言いつつ「でも個人の考えが確立されていなかったら議論することもできないし、自分の意見を持っていないと他の意見と比較する事さえできない」という自分の哲学を教えてくれた。

確実な自分の‘信念’を持っている「上田普」、これからの彼の行方が楽しみでたまらない。

PROFILE

1974年兵庫県生まれ。5歳より母親の元で書を学ぶ。

1996年四国大学書道コース卒業後、中国浙江省杭州大学へ留学。

2000年カナダ・トロントに渡り、個展等のアート活動の他

筆文字によるタトゥーデザインや 本の装丁を手掛ける。

2001年からはサザビーズNY へ出品販売。

2002年制作の場を京都に移し、2005年京都市美術協会より新鋭美術作家に選出。 2006年よりオーストラリア・ゴールドコーストのギャラリーにて常設展示販売。

2007年シャカラビッツ『満天の星を探そうとも空は見ない』のプロモーションビデオに出演。アートシドニー、韓国国際アートフェア、木津川アート、Water tower art fest(ブルガリア)等のアートイベントに参加。

近年は泉鏡花作、イラストレーター中川学絵の絵本「龍潭譚」。

同じく「絵本 化鳥」の題字を制作。(2作共にアジアデザインアワード2013にてメリット賞、ブロンズ賞受賞)。NMB48渡辺美優紀さんの書道パフォーマンス監修や株式会社男前豆腐店や叶匠寿庵等の商品ロゴを手掛ける。

また現代アートとしての作品制作のほかに、他ジャンルのアーティストとのコラボレーションで新しい書の表現も模索。トークイベント、ワークショップ、国内外のメディアなどで書道と表現する楽しさを伝える活動も行う。

四国大学書道文化学科非常勤講師。

Born in Hyogo,Japan in 1974.He started studying Shodo(calligraphy) in childhood, learning from his mother, and graduated from Shikoku University in 1996 , majoring in Japanese calligraphy.

In 1998 he went to China in order to pursue the roots of Shodo , and studied at Hangzhou University.

He moved to Toronto,Canada in 2000.

His exhibition sales and one-men show in a gallery in Toronto caught the attention of an art dealer in 2001, and his works were sold at Sotheby’s in New York.

He moved to Kyoto in 2002.

The Kyoto City Society for Fine Arts designated him as an up-and-coming arts novelist In 2005.

He participated in Art Sydney 2006, and Korea International Art Fair 2007.

He won the honorary award in the international art exhibition of calligraphy 2008 in China. Won the prizes at Design For Asia Award 2013 for title artworks for two picture books.

As well as holding one-man/group exhibitions both at home and abroad, he provided designing works for folding fan, Japanese traditional clothes (KIMONO) and accessory.

He collaborated with other artists or craftsmen on the artworks.

To introduce the pleasure of SHODO and art expression, he performed workshop, and interview/appearance on domestic and international media.

He now works at Calligraphic Culture Department, Shikoku University.


bottom of page